3C24シングル ステレオアンプ 
ダイナミックカップルドアンプ


 千葉県市原市のKさんから、3C24という面白い球をみつけたが、 これを使ってオーディオアンプを作れないだろうかというご相談でした。

回路図

測定結果

ユーザーレポート


3C24

 ご覧の通りのユニークな形をした真空管で、送信機のAF-B級変調や RF-C級増幅用に開発された球です。
 直径は35ミリ、高さ9センチほど、 うちのお弟子さんは親しみを込めて「吊るし柿」と愛称をつけていました。
 トッププレートとグリッドは元々ジュメット線が引き出されたままですが、 使いやすいようにアルミ棒を加工したものをつけています。 これで通常のプレートキャップが使えますし、グリッドの方は 写真のように1.6Φのメッキ線をつけて、球をソケットに挿すさい、 シャーシ側に設けたジャックに同時につながるよう工夫してあります。 これでグリッドの放熱も万全です。
 この球の詳細はこちらの PDFを参照下さい。
 特性図を見る限り、いつものダイナミックカップル方式が合い そうなので、 とりあえず作ってみましょうということになりました。


Front view 

 お預かりした主なパーツはこの3C24、それに 電源、出力、チョークなどトランス一式です。  アンプのデザインは相談しながら決めましたが、 オーソドックスな配置で、 いつものウッドケーススタイルで仕上げました。


Top view

 オーディオ出力管として3C24がどれほどの実力を持っているか 未知数ですので、とりあえず手軽に試してみようということで、 トランス類は廉価・武骨ながら特性の良いノグチ製でまとめることになりました。


Top view

 


Rear view

 


動作中の3C24

 この前作った4E27を小さくしたような感じです。  


内部拡大写真は こちら

基本回路図


 回路はいつもの811Aなどと同じダイナミックカップル方式ですが、 出力管がこの大きさですから初段やドライバーに大きな球は不釣合いです。 MT複合管の中から使えそうな候補を選んでテストしてみましたが、 いずれもバイアスが浅く、このアンプのドライバーとしての動作条件である 30V10mAがうまく得られません。
 例えば今回の6BM8ですと、カソード電位30Vで10mA流すには、 プレート電圧に出力管供給電圧より高圧が必要になり、かつそれでは 6BM8の定格をオーバーしてしまいます。
 そこでカソード電位を30Vとしたまま、 6BM8のグリッドに正電位18Vを与え、見かけ上バイアス−12Vとして動作させます。 これで150Vほどのプレート電圧で10mAが流れ、 目的を達成することが出来ます。
 なおこの電流は出力に応じて20mAくらいまで変動しますから、 6BM8のプレート供給電圧を抵抗などで下げると電圧も変化してしまい、 所定の出力を得ることが出来ません。ここでは定電圧放電管を使って 電圧の安定化を図っています。
 こうして出来あ上がったアンプですが、 出力はちょうど2A3シングルあたりとほぼ同じ4Wほど、 特性も下のグラフで分るようにまずまずの成果を得ることが出来ました。 ただ見た目も音の傾向も2A3とは一味も二味も違うようです。

 当工房では300BやEL34など、いわゆる著名オーディオ出力管 を使ったオーソドックスなアンプは勿論お作りしますが、 この例のようにちょっと変わった球などお持ちのお客様のご要望にも 応じております。どうぞお気軽にご相談下さい。

測定結果

当工房のアンプはすべて詳細な測定を実施しております。
データで音がわかるわけでもありませんし、物理特性を 追求するアンプでもありませんが
お渡しするアンプの 健康状態だけは把握しておきたいと思っています。

基本性能

出力 4W+4W 所要入力 1200mV 
歪率  0.5%以下(1KHz1W時)
残留ノイズ 0.5mV以下 
周波数特性 20Hz〜29KHz(−1dB)
  ダンピングファクター 1.25

消費電力 145W
本体サイズ 325Wx265Dx180H
重さ 12Kg

  入出力特性

出力対歪率特性

周波数特性

ユーザーレポート

ユーザーからのメールによる評価です。
(ご本人の許可を得て掲載しております)
この球との出会いは、 某オーディオ倶楽部の発表会で並居るアンプの中でただ一つだけ光彩を放って僕の目の中に飛び込んできました。 音は、高域に気品のある音でした。(みなさんも熱心に聞かれていたように感じました。)

 ちょっと興味が出てきて、自宅に帰ってからネット検索するとアンプ事例がありシングルで約2W前後の出力しかでないとありました。 球はあるのかなぁ?と某オークションを見るとあって、気がついた頃には、手元に6本の吊るし柿(3C24)が。。。

 手に入れた3C24を眺めながら自作の道を彷徨ってました。 何かヒントになるかも?(正確にはくださるですね。)という事で、思い切って?以前より真空管アンプの回路を勉強させていただいてます(これに関して、こちらに書くと長くなるので省略させてください。)Valves' Worldさんに相談 したところあの球はオーディオとしては。。。 と、ツレナイご返事でちょっと落ち込んでしまいましたが、その後、 実験をしていただき出力が4Wぐらいとれそうで、なんとかオーディオ・アンプとして出来そうだ。 とのお返事を頂き、しかも2Wが4Wになると聞いて、速攻でお願いしました。 その際、トランス・メーカーはこちらで指定させていただきました。

 実は、自作したSRPPドライブの直結2A3シングルアンプのトランスメーカーと同一にして、 球の音の違いを確かめてみたいと下心があったのです。 (プロとアマチュアの作るモノは大きく違いますので比較できないのでは?と言う声も聞こえてきそうですね。) この辺のことは長くなるので省略させてください。

 総合的に、押し出しと張りのある高域、締まりのある低域は、 2A3シングルよりも上ですが中域の厚みは2A3の方が上でしょうか? ヴォーカルのニュアンスも雰囲気も2A3よりも上でした。

 僕の真空管アンプに対する思い入れは、見て、聞いて、楽しく。 触って、磨いて、楽しめるアンプが好きです。

 今回、Valves' Worldさんにお願いして完成した光彩を放つ吊るし柿アンプは、まさに的を得たりでした。 秋の夜長に熱いコーヒーを飲みながらバロック、ボサノバに合うアンプを作っていただきまして、 ありがとうございました。 参考になるか不明ですが、以下に試聴したCD、機材を書き留めておきます。

試聴CD
ソニーロリンズ「ウエイ・アウト・ウエスト」
ムジカ・アンテック・ケルン「バッハ 管弦楽組曲BWV 1066〜1069」
ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン
ダイアナ・クラール「ザ・ルック・オブ・ラブ」
アントニオ・カルロス・ジョビン「ウエーブ」
佐井好子「胎児の夢」

試聴機材 CDプレイヤー:エレキット TU-878CD
(フイリップスLHH700のCDトレーが壊れてしまったのでこちらがメインになりました。)
スピーカー:アルテック601C+100Lのウルトラバスエンクロージャ

 余談ですが、 出力トランスをノグチからISO、ハシモト、タムラにするともっとよくなる気配を感じます。

以上、千葉県市原市のKさんからいただいたレポートでした。
Kさんからは引続き811Appアンプのご予約も頂いており、 他にHD203AやEIMAC304THなどのご相談も受けておりますが、 どうやら送信管アンプの魅力にとり憑かれたご様子です。


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