845 トランス結合 シングルアンプ
VT62ドライブ


金沢にお住まいのFさんからいただいたご相談は、
大好きなVT62シングルの 非力さを何とか克服したいというものでした。
パラシングルという選択肢も ありましたが、
いっそのことVT62をドライバーにして 845を駆動するアンプを
お勧めしてみましたところ、 興味を示していただけましたので製作しましたが、
期待どおりの性能、音質が得られました。

回路図

測定結果

ユーザーレポート

Front view

前作とはうってかわって左右対称の配置で、好評のウッドケースも 今回はご本人の希望でチークの無垢材を奢っています。
本体サイズ420Wx370Dx280H、重さ約35KG

Rear view

スピーカー端子はA/B二組切替で、かつそれぞれが8Ωと4Ωに 対応しています。

Top(front) view

トランス類は 当工房在庫品の旧タンゴ製品でまとめてみました。

Top(rear) view

端子類および各種切替スイッチなどすべて上面配置で、本体奥行きの割には 設置スペースを取りません。

inside

845のシングルステレオとしては限界のサイズで、内部は過密状態です。 高電圧を扱うアンプですからそれなりの配慮も欠かせませんが、 1000Vラインにはシリコン被膜の高耐圧ケーブルを採用、 劣化の激しい高圧部ケミコンの排除など考慮しました。
内部拡大写真と説明 こちらに用意しました

基本回路図(増幅部は片チャンネル分のみ表示)




基本回路は前作45ドライブの時とほとんど同じですが、
ドライバートランスはVT62の内部抵抗約6KΩから NC−16をチョイスしました。
今回もトランス結合に もかかわらずオーバーオールのNFBを3dBだけ かけていますが、
これは特性改善が目的ではなく ダンピングファクターの調整が主眼です。
電源部は例によって整流管の遅延動作を利用して 高圧の突入を防止していますが、
今回の電源トランスMS−210DRは ダイオードブリッジ整流を想定していますので、
やむを得ずブリッジの半分を整流管にすることで解決しています。

測定データ

当工房のアンプはすべて詳細な測定を実施しております。
データで音がわかるわけでもありませんし、物理特性を 追求するアンプでもありませんが
お渡しするアンプの 健康状態だけは把握しておきたいと思っています。

入出力特性

無帰還の時には入力600mVで16Wを超えたあたりからやや頭打ち になり始めますが、
3dBのNFBで入力900mV20W付近まで 直線性が改善されます。
5%歪時の最大出力は無帰還で18W、 NFB3dBで20Wとなりました。

歪率特性

無帰還、負帰還時ともに急激な歪の増大もなく 3波の傾向も良く揃っています。

再生周波数帯域

無帰還、負帰還ともに十分な帯域特性を維持しています。
負帰還時の40KHz付近の小さなピークは VT62の内部抵抗がNFBにより低下、
NC−16とのマッチングが若干ずれるためですが、 発振などにいたる危険性はありません。
ダンピングファクターはNFBによって無帰還時の4.0から 5.5に変化して
同じスピーカーでも音色の違いを実感できます。

ユーザーレポート

ユーザーからのメールによる評価です。
(ご本人の許可を得て掲載しております)
 VT62ドライブ845トランス結合シングルアンプは 我が家で活き活きと音楽を奏でております。
 実在感溢れる音は、音楽を構成する全ての音を鮮明に表現しながら、 織り成すハーモニーが見事に溶け合っています。
今まで強音の影に隠れていた弱音までもが美しく浮かび上がり、 空間にしっかりと定位しています。
全ての音が高密度で濃厚で力強く、なおかつ繊細。空間の奥行きを 前後に表現しつつ、ダイナミックな躍動感もしっかりと表現できる・・・、 その雄大なエネルギーバランスと質感に舌を巻きました。
音楽のジャンルや編成に関係なく心から音楽に浸れます。

 ただし問題が無い訳ではありません。
それは刺激的な音が出ないので つい音量を上げてしまい、知らないうちに大音量になっている事です。
こればっかりは自らの冷静な判断で自制するしかありません。

 tossieさんのマジック、それは無機質な部品の集合体であるアンプに、 まるで生き物のような熱い心を入れることができる深い経験と技。
そして、真空管に対するやさしい思いやりと鋭い直感。 そんなマジックがこのように魅力的なアンプを誕生させたのでしょう。
このアンプはスペックに表しようのない高い音楽性を表現する楽器です。

 今回は製作の相談から仕様に関する質疑応答、そして製作の進捗報告まで 心のかよったtossieさんの対応に、完成までの待ち遠しい時間が逆に 楽しいコミュニケーションの時間となり、製作の一端にかかわる事もできました。
世界にひとつしかない自分のアンプを持てたこと、そのアンプが想像以上に 素晴らしい作品に仕上がったこと、そしてtossieさんとの出逢いを 心から喜んでいます。

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【接続機器】
CDP:VRDS−25Xs
プリ:C260
スピーカー:TD−700 & PAX−A20

 以上、金沢にお住まいのFさんから納入後早々にいただいたレポートです。
氏からご相談をいただいたのは、まだ寒さの厳しい晩冬でしたが、 アンプ完成の陽春までちょうど季節の変わり目でした。 その移ろいを写真に託して度々お送りいただきましたが、 美しい写真は作業に疲れた心身を心地よくほぐしてくれました。 私からもこの場を借りてお礼を述べさせていただきます。 どうもありがとうございました。
(写真の一部を こちらに掲載させていただきました)


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