71A シングル ヘッドフォンアンプ
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東京・町田市のAさんからいただいた依頼は深夜自室で静かに 音楽を楽しめるアンプというもので、
ヘッドフォン再生を 主体にしていますが、もちろんスピーカーを駆動する能力も十分備えています。

回路図

測定結果

ユーザーレポート

Front view

上面右側に音量ボリューム、ヘッドフォンジャック、その他の入出力端子などを まとめて配置しました。

Top view

本体サイズは220Wx270Dx150H、オイル仕上げチーク無垢材の ウッドケース入りです。

Rear view

電源インレットのみ後部上面に設置しました。

inside

内部は通常のシングルアンプとなんら変わるところはありませんが、 ヘッドフォン用にハイインピーダンスの送り出しを付けた分込み入ってしまいました。
内部拡大写真は こちら

回路図(増幅部は片チャンネル分のみ表示)


ヘッドフォンでの聴取を考慮して初段は低雑音高増幅5極管のEF86を三結で採用、
S/Nの向上と適度なゲインを確保しました。
出力トランスには32Ωタップもある 旧タンゴのH−5Sを使い、
ご使用になるヘッドフォンとのインピーダンス整合が取れるよう配慮しましたが、
スピーカー出力と送り出しタップが別ですので、
通常のヘッドフォンジャック挿入による 出力切替でなく別にスイッチを設けました。

測定データ

当工房のアンプはすべて詳細な測定を実施しております。
データで音がわかるわけでもありませんし、物理特性を 追求するアンプでもありませんが
お渡しするアンプの 健康状態だけは把握しておきたいと思っています。

入出力特性

歪率特性

再生周波数帯域

ユーザーレポート

ユーザーからのメールによる評価です。
(ご本人の許可を得て掲載しております)
 アンプはお願いしていた通り、10月7日(木)の午前中、9時45分に宅急便で届けられました。 製作をお願いして1ヶ月ほどで仕上げていただいたことになります。 有難い事です。

 早速段ボール箱を開けて、アンプを取り出しました。 アンプは逆さまに入っていて、持ち上げたときに木枠だけが持ち上がったので、 一瞬「壊したかな?」と思いましたが、そういう構造なのですね。 取り出してテーブルの上に置いてしばらく眺めておりました。 木枠やアンプ本体の作りがとても良いので感心致しました。

 ほんとうに、Tossieさんのデザインセンスのよさに感心しております。 アンプの大きさによって木枠の幅が違いますよね。今回の71Aヘッドフォンアンプは小さいので、 それに合わせて木枠の幅を狭くしてあって、それがこのアンプを小さく感じさせない 全体のバランスの良さにつながっていると思います。 Valves’ Worldのプレートの位置も考えてあって、最初は電源ONのパイロットランプは 付いていないと思っていましたが、実際に使ってみるとプレートの中の真空管のところが ランプになっているのには嬉しくなってしまいました。こういう細工ができるところが凄いですね。  内部の配線も、大きなパーツの配置を考えたときには、もう既に小物部品の選定や取付け位置、 配線方法も一緒に頭の中にあるという感じが想像でき、 その機能的に美しい立体的な配線に驚くと同時に、 これでアンプの性能を最大限発揮するように考えられているのだろうな、 とただただ眺めるばかりでした。電気的な、あるいは技術的なことは全くわからないので、 今度は上から見てみました。

 これはもう、自作というようなアンプではありません。 素人(私)がヘッドフォン端子付きのパワーアンプなどを作らないで良かった、 と本当に思いました。自分で作る勇気は無くても、 本当に作れる人を見つけてアンプ製作をお願いする最初のメールを出す勇気があった自分を幸運だと思います。 (矢沢永吉のバラードをヘッドフォンで聞いていて、しばし手が止まってしまいました。)

 さて、上面パネルの仕上げは、お願いしたとおりで、 傷が付きにくい感じで色合いがシックで気に入りました。 アンプ全体の色のバランスはとてもいいと思います。 電源トランス、出力トランス、チョークトランス、入出力端子などの位置が 対称的な感覚ではなく、アンバランスの中に全体のまとまりを感じさせる配置に なっているのは素晴らしいです。メインスイッチよりも小さい、 繊細さを感じるスピーカーとヘッドフォンの切り替えスイッチ。 ヒューズの位置が最初はメインスイッチ近くにあったのに、 ACインレットと整流管の間に変更されたこと。ボリュームつまみの変更と位置、 ヘッドフォン端子の位置、スピーカー端子とRCA端子の左右の間隔等、 ほんとに微妙な配慮をされての結果がそこに現れているようで、その所有者になれるのは嬉しい限りです。

 71A真空管のベースが落とし込みになっているのは、高さがあまり無いH-5S出力トランスとのバランスからか、 放熱対策だと思いますが、この手間がこの71Aヘッドフォンアンプに格調の高さを与えていると思います。 実際には小さくても、小さく見えない懐の広いデザインは秀逸でValves’ Worldの 他のアンプと並べても決して引けを取らないものに仕上がっていると思います。 以前の71Aアンプに使用された6SL7が、設計段階では12AT7に変更されていましたが、 「高域特性の良い6SL7」が良さそうな気がして、未練が無かったわけではありません。 しかし、スペースの関係で6SL7よりは12AT7を選択したTossieさんの設計意図を尊重し、 同等以上の性能を12AT7で追及していただけるだろうという気持ちがあったので、 お任せした次第です。結果的にはEF86になったわけですが、「低雑音高増幅5極管を三結で採用」 ということで、最後まで私の使用目的に沿った最高のアンプを作っていただく姿勢を崩さずに 努力してくださった結果だと思っております。

 棚にセットした71Aアンプを「いいだろう?」とうちの奥さんに見せると、 しげしげと見て、「このキラキラしてるのがいいわね」と、気に入った様子です。 EF86の、銀色のシールドのおかげです。思わぬ効果でした。それにしても光物に弱いですよねぇ、女性は。

 右の画像で、アンプの下にあるのは、偶然にも横幅が同じだった、 Audio craftのPE-500(MM)というフォノ・イコライザーアンプです。 あまり良い置き方とは思えないので、そのうち変更しようと思っていますが、 このままでもレコード再生には全く問題がなく、ノイズが増えるということはありません。 多分、どんな置き方をしても安心して使えるのではないでしょうか。 それだけ、アンプ自体の外部に対するノイズ対策がしっかりしているのではないかと思います。 よく分らないのですが、スピーカー端子、RCA入力端子にはいいものが使われている感じがします。 ヘッドフォン端子も良い感じで、ヘッドフォンジャックを差し込むときに滑らかな感じがいいです。 ボリュームはクリック感があって、良さそうという感じです。その他のパーツも値段ではなく、 良く吟味されたものが使われているのではないでしょうか。 使って気持ちの良いアンプに仕上がっています。

 音量ボリュームを最大にして、ヘッドフォンでほんの僅かにサーという音が聞こえるかな、 という感じで、2クリックぐらい音量を小さくすると、全く何の音も聞こえなくなります。 ヘッドフォンは出力音圧レベル100dB、インピーダンス40ΩのオーディオテクニカATH-W1000です。 ノイズの無いアンプと言っていいと思います。出力音圧レベル88dBのB&W Nautilus805スピーカーからなら、 スピーカーに耳を近づけてもボリューム最大で全くなにも聞こえません。 ホームページの測定結果の歪率特性でもwithout Hum Noiseとありますが、 まったくそのとおりです。また、動作中に出力管を触れる発熱の少なさは期待通りで、驚きました。

 ちなみに、Valves’ Worldのギャラリーにあるアンプの記事は、 古いものから順に全てダウンロードして編集し、左のようにプリントアウトして本にしてあります。 結構厚い本になって、現在3冊目です。紙に印刷されたものは、 時間に左右されず落ち着いて読むことができるので便利です。 持ち歩くにはちょっと不便な厚さかもしれませんが。 ついつい、気に入ったアンプの写真やデータ、ユーザーレポートを何度も見てしまいます。

 スピーカーとヘッドフォンの切替スイッチですが、始めはノイズが出るのが心配で、 アンプのボリュームを絞ってから切り替えていたのですが、 アンプのボリュームを最大にしていてもスイッチの切り替えでノイズが出るようなことは無いというのがわかり、 現在ではボリュームは最大のまま、安心して切り替えています。 この安心感は音楽を楽しむアンプにとっては重要なファクターだと思います。

 使い始めに適当に71AとEF86を挿したのですが、EF86の底にナンバーが振ってあったのを思い出し、 アンプの完成を連絡していただいたメールに添付されていた写真と見比べて両方とも位置が違っていたので、 それぞれが同じ位置になるように挿し換えました。アンプというものは、 すぐには良い音で鳴ってくれるわけではないので、しばらく使い続けてみようということで、 スピーカーはNautilus805、ヘッドフォンはオーディオテクニカのATH-W100を繋ぎました。 ヘッドフォンを使うたびにヘッドフォン端子に差し込むといった作業が不要で、 ヘッドフォンの定位置があるというのはいいですね。

 スピーカーはNautilus805よりも、多分息子が使っているDIATONEの純正スピーカーボックスに入った P-610DBとコーン型ツイーターTW-503の2Wayスピーカー(私のお下がり)の方が良く鳴るとは思いますが、 取り上げるわけにもいかないので、出力音圧レベルが現在では標準値くらいのNautilus805を鳴らすしかありません。 そのうち機会を見て、試しにP-610を鳴らしてみたいと思っています。ヘッドフォンは、 始め自分のATH-W100を使っていたのですが、兄が新しいATH-W1000を貸してくれたので、 今ではそれを使っています。こちらの方が繊細な音を表現してくれます。

 ヘッドフォンでの音楽再生では、刺激的な音がしないのと広がりのあるしなやかな音質で、 ヘッドフォンを着けていても圧迫感を感じることは無く、今までよりも長時間音楽を聞くことができます。 パワー不足は感じられませんので、どんな音楽もこなしてくれます。 時々ヘッドフォンをしているのを忘れるほど良い音で音楽を聞かせてくれます。 今日は一日中音楽を楽しんでいますが、午前中にはナベサダの武道館ライブ (レコードをCDに録音したもの)を全曲楽しんでしまいました。

 スピーカーの使用では、パワーが小さいアンプということで、 音量不足になるのではという気がしていましたが、全くそんなことはありませんでした。 隣近所にうるさい位の音量が出ますし、クリップして音が潰れているという感じもしません。 本当に1Wも無いの?という感じです。パワー不足で再生する音楽を選ぶ傾向があるかもしれないと 思っていましたが、そのようなこともなく、本当に音楽を楽しく再生してくれるアンプだと思います。 小さな音量で夜に聞いているときにも、低音がきちんと出ていて、音楽全体のバランスがとてもよく、 楽しめます。大きな音量にしたときもそのバランスが崩れる感じがせず、 よりストレートに音が出てくる感じになり、リアルさが増します。 ヘッドフォンアンプとしてお願いした71Aアンプでしたが、 スピーカーからの再生音があまりにも良いので感心しています。

 最近流行の、グレン・ミラーやベニー・グッドマン楽団のビッグバンドジャズもいいですし、 ライ・クーダーやケニー・バレルのギター、コールマン・ホーキンスのサックス、ジャズ・ピアノもいいです。 エラ・フィッツジェラルドのヴォーカル、ライブの雰囲気、 カーペンターズのアズ・タイム・ゴウズ・バイ、プラターズの16トン、 といろいろと聞きたくなるアンプです。今までのメインアンプは、ちょっとお休みさせて、 しばらくこのまま使い続けてみようと思っています。 もっと良い音で音楽を聞かせてくれるようになりそうな気がしていますので。 それほど期待させられるアンプです。

 現在は右の画像のように、棚の中に納まって耳と目を楽しませてくれています。 これで、家に帰って仕事をしたり、パソコンをしたり本を読んだりしながら音楽を楽しめるのですから、 ホントに幸せ者です。  

以上、東京・町田市のAさんからレポートと写真です。


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